乳腺診療について

基本理念

最新の診断・治療法を用いて乳がんの治療成績向上を目指し、信頼のおける質の高い医療を提供します。

  • 1
    乳がん検診を推進し、早期発見を目標とします。
  • 2
    乳がんの個々の特性と科学的根拠に基づき、患者さんが納得する有効な治療を行います。
  • 3
    専門性の高いチーム医療を実施します。
  • 4
    がん拠点病院との緊密な連携で、乳がん治療ネットワークにおける役割を果たします。

診療内容について

当院における乳がんの基本的治療方針

診療方法

マンモグラフィ

乳腺に異常があるかどうかを調べる乳房専用レントゲンです。

検査時、上半身は検査着に着替えていただきますので、ワンピースなど上下が分かれていない洋服はできるだけ避けるようお願いします。

結果は当日、医師が説明します。

※2024年6月より、最新のマンモグラフィ撮影装置を導入しました。

※女性診療放射線技師が行います。

超音波検査

多くはマンモグラフィとセットで行われます。

胸にゼリーを塗り、モニターでチェックします。

授乳中、妊娠中でも受けられます。

結果は当日、医師が説明します。

※看護師が側に付きます。

細胞診

超音波検査でしこりの位置を確認しながら、細い針を刺して細胞を吸引し、良性か悪性かを調べる方法です。

結果は約1週間後です。

吸引組織生検

細胞診で乳がんの診断がつかない場合に、しこりの一部を取って顕微鏡で確認する組織検査です。

細胞診よりも太い針を使うため局所麻酔をし、吸引組織生検装置(VACORA)を用いて病巣部を採取します。

1時間程度で済み、傷口をテープで止めて出血防止のため一晩圧迫を行います。翌朝圧迫を解除します。

結果は約1~2週間後です。

骨密度測定検査

ホルモン治療などの影響により、骨密度が低下し骨折を起こしやすくなることがあります。1年に1回定期的に骨密度を測定し、骨の状態をチェックします。前腕で簡単に測定できます。検診でご希望の方は自費(3,300円)で骨密度検査を受けることができます。

外来化学療法

化学療法は、抗がん剤を投与してがんの増殖を抑え、転移を予防し、再発の可能性を下げるのが目的です。化学療法はその目的により、術後に行う術後補助化学療法、術前に行う術前化学療法、再発後に行う再発化学療法に分けられます。術前、術後化学療法の場合、抗がん剤の作用をより強くするために、性質や効き目の異なる抗がん剤を組み合わせる「多剤併用」が基本となります。

乳がんはホルモン感受性(エストロゲン、プロゲステロン受容体)、HER-2、Ki-67(がんの増殖能)により、5つのサブタイプに分けられます。このサブタイプの特徴に合わせて術後の治療方針を立てていきます。

ルミナールA
ホルモン受容体陽性、HER-2陰性、Ki-67が低い。
ホルモン感受性が強いので、化学療法は不要。
ルミナールB
ホルモン受容体陽性、HER-2陰性、Ki-67が高い。
ホルモン治療だけでは効果が不十分な場合、化学療法が必要。
ルミナールHER2
ホルモン受容体陽性、HER-2陽性。
ホルモン治療に加え、化学療法+分子標的療法が必要。
HER2
ホルモン受容体陰性、HER-2陽性。
化学療法+分子標的療法が必要。
トリプルネガティブ
ホルモン受容体陰性、HER-2陰性。
化学療法が有効。
▼化学療法
  • EC療法(エピルビシン、シクロホスファミド)
  • タキサン系薬剤(パクリタキセル、ドセタキセル、アルブミン結合パクリタキセル)
  • TC療法(ドセタキセル、シクロホスファミド)

通常、EC+タキサン系薬剤の逐次療法を用います。高リスク例に対しては、dose dense EC療法 (2週間に1回の投与)+アルブミン結合パクリタキセルを行います。
再発例: エルブリン、ナベルビン、ジェムシタビン、カルボプラチン等

▼分子標的療法
  • 1.
    HER-2標的剤 (HER-2陽性例)
    • トラスツズマブ
    • ペルツズマブ
    • トラスツズマブ・エムタンシン
    • トラスツズマブ・デルクステカン(基幹病院のみ)
  • 2.
    血管新生阻害剤(再発例)
    • べバシズマブ (パクリタキセルとの併用)
  • 3.
    CDK4/6細胞周期阻害剤 (ルミナール再発例)
    • バルボシクリブ、アベマシクリブ (ホルモン剤との併用)
  • 4.
    m-TOR阻害剤 (ルミナール再発例)
    • エベロリムス(エキセメスタンとの併用)
  • 5.
    AKT阻害剤 (ルミナール再発例)
    • カピバセルチブ(PIK3CAPIK3CA、AKT1またはPTE遺伝子変異を有するホルモン受容体陽性かつHER-2陰例)
  • 6.
    免疫チェックポイント阻害剤 (トリプルネガティブ例/PD-L1陽性例)
    • アテゾリズマブ(抗PD-L1抗体)、ペンブロリズマブ (抗PD-1抗体)
  • 7.
    PARP阻害剤 (トリプルネガティブ例/BRCA陽性例)
    • オラパリブ、タラゾパリブ
  • 8.
    サシツズマブゴビテカン(トリプルネガティブ再発例)
    • がん細胞の表面に多く発現しているタンパク質「TROP-2」を標的

ルミナールHER2やHER2タイプのようにHER2陽性の場合には、トラスツズマブ(+ペルツズマブ)という薬剤を使った分子標的療法を行います。

ルミナールA・BやルミナールHER2タイプのようにホルモン受容体が陽性の場合には、抗がん剤治療終了後にホルモン治療を行います。

抗がん剤の副作用は様々で個人差がありますが、それに対応する薬剤を併用したり、予防的に使用します。抗がん剤の投与時間は、使用する抗がん剤によりますが、点滴で約1時間~3時間です。ベッドやリクライニングチェアで読書など、リラックスして受けていただけます。投与間隔は原則3週間に1回で行います。

▼経口抗癌剤 (5-FU系)
  • UFT、S-1、カペシタビン

術後補助療法あるいは術前化学療法後の腫瘍残存例に対して用いることがあります。

内分泌治療

乳がん細胞には、女性ホルモン(エストロゲン)の影響を受けて増殖するタイプのものがあります。内分泌治療ではこの女性ホルモンを抑制する薬剤を使用し、がんの増殖を抑え再発を予防します。

閉経前では、LH-RHアゴニスト(リュープロレリン、ゴセレリン)という薬剤を使用します。抗エストロゲン剤(タモキシフェン、トレミフェン)は閉経前でも閉経後でも使われる薬剤です。また、閉経後に使用する薬剤には、アロマターゼ阻害剤(アナストロゾール、エキセメスタン、レトロゾール)やステロイド性抗エストロゲン剤(フルベストラント)があります。

乳がんの手術(日帰り手術)

入院による手術では、通常、全身麻酔で行われます。全身麻酔として、吸入麻酔、全静脈麻酔や麻薬鎮痛薬、筋弛緩剤などが使用され、麻酔器による機械呼吸が行われます。これらの薬剤の中には免疫機能を低下させるものが知られており、それによりがん細胞を増殖させる可能性も考えられます。

当院で使用する麻酔薬は局所麻酔と静脈麻酔であり、免疫機能の低下が少ない薬剤です。がんは免疫力の影響が大きいことが、近年明らかになっています。また、局所麻酔剤(リドカイン)の術前腫瘍周囲への局注により、再発率の低下、生存率の向上が報告されています。

手術は通常の全身麻酔とは異なり、自発呼吸を残したまま眠った状態で行いますので、終了後はすぐに意識が戻ります。3~4時間程度回復室で休んでいただき、完全に目が覚めた状態で帰宅できるので、入院の必要はなく日帰り手術ができるのです。

がんの病巣には乳房部分切除を行い、腋窩でセンチネルリンパ節生検を行います。がんの大きさが3cmを超える場合、腋窩リンパ節に転移のある場合には、通常は手術前に抗がん剤治療を行い、がんを小さくした上で手術を行います(術前化学療法)。手術室には、麻酔器、除細動器などの設備も整っています。乳房の全摘が必要となる場合は、基幹病院へ紹介しています。

▼当院で日帰り手術を行った症例の再発率と生存率

2008年5月~2024年10月までの16年5ヶ月間におけるステージ0からステージIIIまでの乳癌に対する乳房温存手術件数は544例で、その全生存率は87.7%ですが、乳癌関連死亡以外の他病死を除いた乳癌特異的全生存率でみると94.1%です。

再発は544例中35例であり、再発率にすると6.4%です。

乳癌の場合、手術して約10~15%が再発するといわれています。乳がんは基本的に術後10年間みていきますが、この結果は好成績であり、局所麻酔+静脈麻酔法により免疫機能低下の回避と局麻剤の効果にある可能性が考えられます。

尚、癌手術における麻酔法と再発・生存率に関する総説はCancer Metastasis Rev. 36: 159-177, 2017にまとめ、当院における乳癌日帰り手術の治療成績はBreast J. 24: 628-632, 2018; Ann. Med. Surg. (Lond) 60: 365-371, 2020; Cancer Rep. (Hoboken) 6: e1643, 2023に逐次報告しております。

赤外観察カメラシステムpde-neoによるセンチネルリンパ節の同定

センチネルリンパ節の同定を見つける際に、「インドシアニングリーン (ICG)」という緑色の色素を乳頭直下に注入します。
ICGは赤外線を吸収する性質がありますので、赤外線カメラで観察すると、リンパ管やリンパ節が発光して見え、腋窩部でセンチネルリンパ節を同定することができます。

尚、センチネルリンパ節の転移の有無は永久病理判定で行います。

日帰り手術に関してよくある質問

本当に日帰りで乳がん手術ができるのですか?
診察で日帰りに適応と判断された場合に行います。早期の乳がん手術の多くは乳房部分切除(乳房温存)で、切除範囲も4cm程度、転移の有無を調べるセンチネルリンパ節生検も傷口は3cm程度です。必要以上に切除しても生存率に差はありません。筋弛緩剤や人工呼吸器を使う全身麻酔による手術でなくても静脈麻酔と局所麻酔で行うことができます。日帰り手術だからといって手術の方法や内容は変わりません。
がんの手術だから入院した方が安心というイメージがあるのですが。
術前には画像診断(MRI,PET-CT)で詳細に検討し、手術の方法も検査や処置も入院時と同じです。入院する方が手厚く治りが早いということもありません。日帰り手術ならその日の内に自宅に帰れるので精神的な安定につながります。又、家族や職場、ペットにとってもかけがえのない存在が入院せずに済むことは何よりだと思います。家事や仕事が多忙で時間の取れない方、入院時のわずらわしさ、心理的、経済的負担を避けたい方に適しています。
局所麻酔で痛みはないのでしょうか?
十分な局所麻酔と静脈麻酔、鎮痛剤で手術は眠っている間に終わります。全身麻酔だと完全に覚めるまで1日程かかりますが、静脈麻酔を使いますので手術終了後すぐに意識は戻ります。手術の記憶も残らず、術後の痛みもそれほどの痛みではなく、内服薬で軽減できますので安心して受けていただけます。全身麻酔に比べて回復もスムーズと言えます。
手術当日はどういう流れですか?
朝から絶飲食です。8時15分までに来院、手術時間は麻酔を含めて1時間半程度です。その後回復室で休んでいただいた後、帰宅となります。止血も丁寧に行いますので術後のトラブルはほとんどありません。帰宅されてからも24時間サポート体制ですのでご安心ください。
手術後の通院、治療はどうなりますか?
手術では体内で溶ける糸を使いますので抜糸や消毒での来院はありません。術後1週間して来ていただき、その後、病理診断結果が 出てからこれからの治療を決めていきます。手術で悪いものを取ってしまえば終わりではなくて、乳がんの治療は手術からスタートすると言われています。早期で手術をしても、目に見えず画像診断でも見つからないがん細胞が他の部分に拡がっていることもあります。この増殖を抑え、再発予防のための治療を行います。一般に、がんの治癒の目安は5年とされていますが、乳がん細胞はゆっくり増殖する性質上5年以降の再発もあるので10年間はチェックが必要です。
費用はどれくらいかかりますか?
入院がない分安く抑えられます。3割負担で、1週間入院だと20万円以上かかりますが、当院の日帰り手術は~15万円で済みます。良性腫瘍の場合は大きさによりますが2~6万円です。

セカンドオピニオン

様々な情報が飛びかう中、自分に最適の治療法が提示されているか、又、重大な決断をしなければならない時、他の医師に相談したくなる方も多いと思います。主治医以外の専門医の意見を聞くことで、納得した治療法を選択することができます。
当院では、乳がんの治療ガイドラインに沿って、あらゆる角度から丁寧に対応させていただきます。
相談当日に新たな検査・治療は行いません。
電話予約の上(ネット不可)、受診されている医療機関の紹介状、検査結果などをご持参ください。

  • 30分以内
    11,000円(その後30分毎5,500円)